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脳をいつも若く保つために

氏名 河村 弘庸【脳神経外科】
経歴 元東京女子医科大学 脳神経外科教授
淑徳大学非常勤講師


ドクターコラムで前回は、男の脳と女の脳の違いについてお話ししましたが、今回は皆さんが日ごろから関心を持たれていると思われる話題を選んでみました。ボケないでいつまでも元気にいたいのは、誰しも考えるところです。

ご存知のように、脳はいとも簡単に、高次機能を遂行し、豊かな感情表現を醸しだします。
これらは、総て脳の神経細胞の働きによるものです。従って脳の神経細胞の特性からお話を始めたいと思います。

(図1)

私たちの身体は約60兆個の細胞から形成されていると言われていますが、爪や髪の毛をみると、伸びたり、生え替わります。骨折しても新しい骨が出来て治ります。即ち、組織を再生させる力があるからです。
しかし、図1を見てください。脳の神経細胞は140億しかないのに、毎日10万個も死滅し続け、再生能力はありません(ただし最近の脳科学では一部の神経細胞に再生能力があることが分かりました)100歳では20%も減少して仕舞います。(図2)

(図2)

加齢とともに神経細胞が減少し続けるのでは、大変一大事と思われますが、心配は無用です。
脳は環境の変化によく順応し、神経細胞は減少しても、神経細胞の結び付き(神経回路の形成、再生)が変化して新たな働きを生み出します。訓練や経験によって新たに神経回路の形成が促進されるのです。

(図3)

少し難しい表現になりますが、脳科学では、「終末開放性」と言って何歳になっても神経細胞のネットワークは再生され終わりがありません(図3)。
表題に「脳の老化」としましたが、皆さんを脅して適切な表現ではありませんでした。
脳の特性をご理解いただいたところで、「脳をいつまでも若く保つための」本題の前に、やはり認知症の正しい理解が必要と思いますので、少しお話ししましょう。一般的には、物忘れ、思い違いがあると認知症の始まりかと思われていますがそうではありません。認知症とはどんな事か?説明したいと思います(図4)。

(図4)

昔の記載では、「認知症」を「痴呆」と表記していましたが、今日では「認知症」に統一されました。これでお分りと思いますが、ヒントがあれば答えられるのは、認知症ではありません。認知症では、関連した事項を示しても思い出せないのです。
もう少し認知症の主な症状を整理してみると、記憶障害、見当識障害、判断力の低下が挙げられます(図5)。

(図5)

即ち、認知症は、脳の部分的な障害でなく、大脳の広い範囲の障害によるものなのです。さて、認知症と言ってもひとつではなく種類があります。図6を見てください。アルツハイマー型と非アルツハイマー型に分けられます。

(図6)

少し難しくなりますが、脳が障害される部位が違います。アルツハイマー型と脳血管性との違いを図7に示します。

(図7)

アルツハイマー型の障害部位は側頭葉内側から頭頂部にかけてですが、脳血管性は主に前頭葉の障害が目立ちます。
第一回目は、脳の神経細胞の特性と認知症についてお話ししました。次回は、「脳をいつも若く保つために」どのように脳を鍛えるかを考えてみます。