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片頭痛の新しい予防薬 エムガルティ

 

氏名 五十嵐 久佳【脳神経内科】
経歴 北里大学医学部卒業(1979年)
英国The City of London Migraine Clinicにて研修(1989年)
北里大学医学部神経内科講師
宮内庁病院内科医長
神奈川歯科大学内科学講座教授

片頭痛予防治療薬(発症抑制薬)エムガルティのご紹介

片頭痛の新しい予防薬(発症抑制薬)であるヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤のエムガルティ(一般名:ガルカネズマブ)が発売され、片頭痛でお困りの患者さんに使っていただくことができるようになりました。
以下にエムガルティについて説明いたします。

1)エムガルティの作用機序

エムガルティはCGRPという片頭痛の痛みに深く関与する神経伝達物質に結合し、CGRPの働きを抑える薬剤です。

従来の片頭痛予防薬はてんかんや心臓の病気、うつの治療薬として開発された薬剤が片頭痛の予防薬(発症抑制薬)として効果があることがわかり、流用されているものがほとんどです。エムガルティがこれらの薬剤と異なる点は、片頭痛の病態を狙って開発された薬剤だということです。

2)エムガルティの効果と副作用

エムガルティは臨床試験で、片頭痛の患者さんの片頭痛日数を有意に減少することが明らかにされ、諸外国では2018年から使用されています。国内の臨床 試験(CGAN試験)ではエムガルティを使用すると、片頭痛日数が50%以上減る患者さん(50%反応率)が約50%、75%以上減る患者さん(75%反応率)が約25%、頭痛が0になる患者さん(100%反応率)が9%でした(いずれも6か月平均値)。また日常生活の支障度も改善することが明らかになっています。

エムガルティは効果発現が早いのも特徴の一つで、注射を始めて1か月後に片頭痛日数が半減する患者さんもいらっしゃいます。ただし、効果がみられない患者さんも10~20%ほどいると考えられています。

副作用としては約30%の人に注射部位反応(発赤、腫脹、痛み、かゆみなど)がみられましたが、いずれも軽度~中等度でした。

まれな副作用として、重篤な過敏症(アナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹など)が起こることがあります。

3)エムガルティの投与方法

エムガルティは月に1回皮下注射する薬です。針が見えないようになっているオートインジェクター製剤と通常の注射の形をしたシリンジ製剤の2つのタイプの製剤があり、どちらも1本に120mgのガルカネズマブが含まれています。初回は120mgを2本、2か月目からは120mgを1本使用します。初回に2本使用することで、ガルカネズマブの血液中の濃度は薬の効果が十分に発揮できるレベルに早期に到達します。

エムガルティは従来の予防薬に比べて効果が出るのが早いのですが、中には2-3ヵ月かかる人もいます。使用3ヵ月後にどれくらい効果があるかを判定し、効果がない場合には続けるかどうかを検討します。

4)どのような患者さんに使っていただけるか

エムガルティを使用するためには、片頭痛と正しく診断されていることが必須です。以下の条件を満たすときにエムガルティの使用を考えます。

  1. 片頭痛であることが確認されている。
  2. 過去3ヵ月間の1か月あたりの片頭痛日数が平均4日以上ある。
  3. 日常生活上の注意や急性期治療薬(鎮痛薬やトリプタンなど)を使用しても日常生活に支障がある。
  4. プロプラノロール(インデラル)、バルプロ酸(デパケンR)、ロメリジン(ミグシス)などの予防薬を使用しても効果が乏しい、あるいは副作用がある、または合併症のためにこれらの薬剤を使用できない。

5)エムガルティをいつまで続けるか

エムガルティをいつまで続けるかについてはまだ明らかにされていませんが、少なくとも6~8ヵ月は使用していただき、片頭痛日数や片頭痛の強さが減少して生活に支障がないようであれば、いったん中止するか、そのまま続けるかを患者さんと一緒に検討することになります。

6)エムガルティによる治療をどこで受けることができるか

エムガルティによる治療は頭痛診療に精通している医師がいる医療機関でお受けになることができます。実際には、日本神経学会、日本頭痛学会、日本内科学会(総合内科専門医)、日本脳神経外科学会のいずれかの専門医を取得している医師がいる医療機関となります。

7)エムガルティの値段

3割負担の場合、注射代が手技料を含めて初回は27,160円、翌月以降は1カ月に1本の注射で13,610円となります。

8)片頭痛患者さんへのメッセージ

片頭痛患者さんは、片頭痛のために仕事を休んでしまう、仕事に集中できない、家族との時間を犠牲にしてしまう、友人との約束ができないなど、生活に様々な支障をきたしています。またいつ片頭痛が起こるか不安を抱えながら生活している方も多くいらっしゃいます。

新しい片頭痛予防薬(発症抑制薬)エムガルティの登場で片頭痛の治療は大きく変わることが予想されます。さらに今年中に同様の効果を示す薬剤が出てくると考えられます。

あなたやあなたの周りの方が片頭痛でお困りなら、是非医療機関を受診なさり、治療について医師にご相談なさることをお勧めいたします。

エムガルティをお使いの患者さんとご家族の方へ

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エムガルティをお使いの患者さんとご家族の方へ

パーキンソン病では何故家では旨く歩けないのだろう

氏名 水野 美邦【脳神経内科】
経歴 北里大学医学部神経再生医療学特任教授 順天堂大学名誉教授

パーキンソン病の患者さんは、発症から5~10年たつと、外では上手に歩けるのに家に帰るとすり足で歩く方が多くなってきます。何故でしょう?

踵からついて歩いていれば歩く時殆ど音がでないのに、すり足で歩くとシュッ、シュッ、シュッと音がでます。配偶者の方はこれに気づいていらっしゃると思います。ヒトの正常な歩行は踵から地面につき、つま先は最後に着地するものです。 普通の人はこれを無意識でやっています。ところがパーキンソン病になるとこれを無意識でやることが難しくなります。外で歩くときはある程度の緊張があります。人の目もあるし、ころんではいけないとの気持ちもあります。こうした緊張感が歩き方をよくしてパーキンソン病の方でも外では比較的上手に歩けるのだと思います。

ところが家に帰ると、その緊張感がいっぺんにぬけ、もう誰の目もきにすることはないという気持ちが無意識の中に働くのではないでしょうか?それで歩き方はすり足歩行になってしまいます。すり足歩行で歩くと絨毯の縁などにも引っかかって転ぶ事があります。パーキンソン病の患者さんは家の中で転ぶことが、外で転ぶより圧倒的に多いのです。打ち所が悪いと大腿骨頭の骨折などをおこして寝た切りになることもあります。従って、家でまずころばないようにしようとの固い決意が大切です。それには歩く時踵からつけてつま先は最後に床につけるという歩き方をもう一度練習して、歩く時はいつもこのように歩く事が大切です。ものを考えながら歩くことや、両手にものを持って歩くことは控えましょう。 これらのことは足に神経を集中することの妨げになります。つまり歩いているときはいつも足に神経をむけ、踵、踵と頭のなかでいいながら歩くことが大切です。どうしても踵からあるけない場合は、腿をあげて歩く練習をしましょう。この時腕を軽く振り、顎を軽く上げて進む方向をみながら歩くことが大切です。パーキンソン病では寝た切りになることはまずありません。骨折をしないように歩きましょう。