〒100-0004 東京都千代田区大手町2-2-1
新大手町ビル1階、地下1階、地下2階

03-3516-7151

脳をいつも若く保つために

氏名 河村 弘庸【脳神経外科】
経歴 元東京女子医科大学 脳神経外科教授
淑徳大学非常勤講師


ドクターコラムで前回は、男の脳と女の脳の違いについてお話ししましたが、今回は皆さんが日ごろから関心を持たれていると思われる話題を選んでみました。ボケないでいつまでも元気にいたいのは、誰しも考えるところです。

ご存知のように、脳はいとも簡単に、高次機能を遂行し、豊かな感情表現を醸しだします。
これらは、総て脳の神経細胞の働きによるものです。従って脳の神経細胞の特性からお話を始めたいと思います。

(図1)

私たちの身体は約60兆個の細胞から形成されていると言われていますが、爪や髪の毛をみると、伸びたり、生え替わります。骨折しても新しい骨が出来て治ります。即ち、組織を再生させる力があるからです。
しかし、図1を見てください。脳の神経細胞は140億しかないのに、毎日10万個も死滅し続け、再生能力はありません(ただし最近の脳科学では一部の神経細胞に再生能力があることが分かりました)100歳では20%も減少して仕舞います。(図2)

(図2)

加齢とともに神経細胞が減少し続けるのでは、大変一大事と思われますが、心配は無用です。
脳は環境の変化によく順応し、神経細胞は減少しても、神経細胞の結び付き(神経回路の形成、再生)が変化して新たな働きを生み出します。訓練や経験によって新たに神経回路の形成が促進されるのです。

(図3)

少し難しい表現になりますが、脳科学では、「終末開放性」と言って何歳になっても神経細胞のネットワークは再生され終わりがありません(図3)。
表題に「脳の老化」としましたが、皆さんを脅して適切な表現ではありませんでした。
脳の特性をご理解いただいたところで、「脳をいつまでも若く保つための」本題の前に、やはり認知症の正しい理解が必要と思いますので、少しお話ししましょう。一般的には、物忘れ、思い違いがあると認知症の始まりかと思われていますがそうではありません。認知症とはどんな事か?説明したいと思います(図4)。

(図4)

昔の記載では、「認知症」を「痴呆」と表記していましたが、今日では「認知症」に統一されました。これでお分りと思いますが、ヒントがあれば答えられるのは、認知症ではありません。認知症では、関連した事項を示しても思い出せないのです。
もう少し認知症の主な症状を整理してみると、記憶障害、見当識障害、判断力の低下が挙げられます(図5)。

(図5)

即ち、認知症は、脳の部分的な障害でなく、大脳の広い範囲の障害によるものなのです。さて、認知症と言ってもひとつではなく種類があります。図6を見てください。アルツハイマー型と非アルツハイマー型に分けられます。

(図6)

少し難しくなりますが、脳が障害される部位が違います。アルツハイマー型と脳血管性との違いを図7に示します。

(図7)

アルツハイマー型の障害部位は側頭葉内側から頭頂部にかけてですが、脳血管性は主に前頭葉の障害が目立ちます。
第一回目は、脳の神経細胞の特性と認知症についてお話ししました。次回は、「脳をいつも若く保つために」どのように脳を鍛えるかを考えてみます。

唯一男性脳の優れているのは?

氏名 河村 弘庸【脳神経外科】
経歴 元東京女子医科大学 脳神経外科教授
淑徳大学非常勤講師

 

前回まで女性脳が如何に、男性脳より優れているかをお話してきましたが、今回は男性の名誉のために、男性脳が女性脳より唯一勝る事をお示ししましょう。
これも前にお話ししましたが、人間の進化の過程に関係します。

男性は、家族を守るために、外敵の排除や食料の確保をしてきました。そのため、現在でも男性脳にはこのような能力が維持されているのです。即ち、「空間把握能力」が断然女性より優れています。
アフリカのマサイ族の狩を見てみると、狩のためには、女性のようなおしゃべりは不要で、狩を一緒にする仲間と目配せで合図を交わし、遠くに動く獲物を追い詰めます。女性より遠くの動く物に対する反応が優れています。
それでは、実際に空間把握時の機能的MRI画像を見てみましょう。男性脳と女性脳とでは、その働きが明らかに違います。
男性脳では、空間認識の際、左大脳半球、前頭葉、頭頂葉、後頭葉と広い範囲、また右大脳半球でも前頭―頭頂葉が活動しています。
一方、女性脳では、大脳半球正中部が少し働いているだけです。

男性脳と女性脳の空間能力の違いの例をお示ししましょう。
知らない場所に、車で行くのは今では車用専用の「ナビ」があります。「ナビ」では進行方向をいつも上方に表示されます。何の心配もなく、その「ナビ」の指示に従えばどこにでも間違いなく到達できます。沿線の道路状況なども考慮して目的地への到達時間も表示してくれます。
しかし、「ナビ」の無かった時代には「道路地図」を片手に運転しなければなりませんでした。
地図は上が北、下が南、右が東、左が西を指します。車が真北に進行して入り時は、地図の通りで問題がありませんが、そのほかの方向に進んでいるときは、地図を進行方向に動かさなければなりません。
しかし、男性脳では「空間認識能力」に優れていますので、地図を進行方向に回転しなくても、道路地図を見て、今いる自分の位置を把握できます。女性脳では、これが非常に苦手です。そこで、女性へのお店の場所の案内では、「大手町3丁目を左に曲がり、約300メートルの左側です」では駄目で、「新大手町ビルを右に見て、00の看板のすぐ近くで、大きな黄色の看板がありますので、そこがご案内のお店です」としなければなりません。
最も、今はスマホ等の道案内がありますので、何も考えずに目的地に連れて行ってくれます。店の案内文も、男性用、女性用に分ける必要がなくなりました。

男と女の脳のちがい(そのII)

氏名 河村 弘庸【脳神経外科】
経歴 元東京女子医科大学 脳神経外科教授
淑徳大学非常勤講師

 

 今回は、女性と男性とで感情表現の違い、また、男性は化粧をしないが、女性は化粧なしでは人前に絶対に出もでません。これも決定的に男性と女性の脳の働きの違いですので、何故なのかお話します。

(図1)

 図1は機能的MRI(核磁気共鳴診断装置)を用いて女性が感情表現している時と男性との違いを示しています。一目瞭然で女性脳では、大脳半球の前後左右と広い場所を同時に使用しているのが分かります。一方、男性脳では左大脳半球の前後2カ所しか働いていません。

(図2)

 前回お話しましたが、女性は子育てが基本的に中心ですので、周囲とのコミュニケーションを大切にします。従って、図2に提示したように、共感する女性脳の特性があります。お喋りの中でいろいろと考え、感情表現も周囲の状況に応じて臨機応変に変えることができるものです。そこで沈思黙考は難しいのです。
 男性脳では、物事を抽象的に把握しシステム化するのに長けていますが、孤独になり勝ちで女性より早く呆ける傾向が明らかです。
 図2に示したように、女性は人間関係を中心としたコミュニケーションを大切にしますが、あくまでも、自分の存在を密かに構築します。従って、自分が必ずしもそうだとは思わなくても、その場の雰囲気に合わせ、「そうね!」と言えるのです。
 いつも断定的な表現は避け、婉曲的表現に終始する傾向が強いので、女性は化粧なしでは、外出できないように「言葉」にも化粧をするのです。このような女性特有の言語表現能力には、男性は全く、追従できません。
 少し横道に逸れますが、茂木健太郎氏著書「化粧する脳」を参考に女性の化粧について考えてみたいと思います。

(図3)

化粧は社会へのパスポートであり、自己構築の基本です.常に他人からの視線を気にしなければ居られないので、自分の脳も化粧を施すと言われています「図3」。

(図4)

少し難しくなりますが、更に面白いことに、化粧している自分の顔と素顔では、あたかも他人と自分を見比べているように、脳が働く場所が同じなのです。右側頭葉後部の「紡錘回」と言う場所が働くのです「図4」。 少し難しくなりましたが、女性脳の高等で複雑な「感情機構」を理解して頂けたでしょうか?

多発性硬化症治療薬の著しい進歩

 
氏名 藤原一男
経歴 福島県立医科大学多発性硬化症治療学講座、教授
一般財団法人脳神経疾患研究所 多発性硬化症
視神経脊髄炎センター、センター長

 

 多発性硬化症(multiple sclerosis, MS)は脳脊髄に炎症による脱髄病変(脱髄とは神経線維を覆うミエリンが破壊されること、ミエリンは電線を覆うビニールのようなもので神経の情報伝達を速くするのに役立っています)が多発する疾患です。若年成人に起こりやすく我が国では1万数千人が罹患しており、年々増えています。
MSの症状は視覚障害、ふらつき、脱力、しびれ、記憶力の低下、排尿や排便の障害など様々ですが、無治療では再発を繰り返したり、しだいに病状が進行して不自由が増していく慢性の神経難病です。

 MSの再発を減らしたり、病状の進行を遅らせる薬を疾患修飾薬といいます。再発を繰り返すタイプのMS(再発寛解型MS)では、再発や脳病変を減少させる疾患修飾薬として、インターフェロンベーター(自己注射で皮下注と筋注の2剤がある)、フィンゴリモド(内服薬)、ナタリズマブ(点滴薬)が使用可能です。さらに最近、コパキソン(自己注射)も承認されまもなく臨床現場で使えるようになります。
一般に、インターフェロンベーターとコパキソンは第一選択薬(まずはじめに投与する薬)、フィンゴリモドとナタリズマブは第二選択薬(第一選択薬が効果不十分あるいは副作用で使えない場合、あるいは再発や脳病変が多い疾患活動性の高いMSでは最初から使う)に分類されています。
また、第一選択薬であるBG-12(内服薬)や歩行障害を改善する4-アミノピリジン(内服薬)の継続投与試験が進行中です。

 欧米ではさらに多くの薬剤がMSに承認されていますが、最近(H27年10月)スペインのバルセロナ市で開催され約9000人が参加した第31回ヨーロッパMS学会(ECTRIMS)では、これまで有効な薬のなかった慢性進行型MSにオクレリズマブというBリンパ球のCD20という分子に対するモノクローナル抗体製剤が病気の進行抑制に有効との治験の成績が報告され、またビオチンという物質を投与すると慢性進行型MSの症状を改善するという驚くべき結果も発表されました。
さらにこの学会では、MSの再発時に壊れたミエリンの再生(再髄鞘化)を促す抗リンゴ-1(LINGO-1)抗体という薬で、視神経炎の後の視覚誘発脳波所見の改善、すなわちこの治療薬により視神経炎の治りがよりよくなったことも報告されました。無論、これらの治療薬の有効性はさらに確認していく必要がありますが、MS治療の新たな可能性として大いに期待されます。


 このようにMSの治療薬の進歩は今や日進月歩ですが、その実際の投与についてはMS専門医とよく相談して自分に合うのかどうかを判断する必要があります。当クリニックではMSのセカンドオピニョン外来を第1、第3月曜日の午後に行っております(休診のこともありますので電話でご確認ください)。お気軽に御相談ください。

男と女の脳のちがい(そのI)

氏名 河村 弘庸【脳神経外科】
経歴 元東京女子医科大学 脳神経外科教授
淑徳大学非常勤講師

これからシリーズで、「男と女の脳のちがい」についてお話し致します。 皆さんの中には、男と女の脳の働きには大分違いがあるのではと気付く人もいると思います.ここに示した図1のように、子供も大人でも趣味も衣装もこんなに違いがあります。きっと脳の働きにも違いがあるのではないでしょうか?

(図1)

(図2)

さて、「男と女の脳の働きのちがい」には1言語、2立体認知、3視覚の3つに分かられます。今回は,1言語のちがいについてお話しします。はじめに、男と女が話しをしているときに脳のどのような場所を使っているか、特殊な診断装置(機能的MRI)使って見てみましょう。

(図3)

女の脳では、話しをしているとき、大脳半球の右も左も、前も後ろも働いています.一方、男の脳では、左大脳半球の前後2カ所しか使っていません.女性が如何にお喋りかお分かり頂けると思います.女性脳ではこの左右、前後の言語センターを駆使するので、3-4人の女性が違う話題を同時に話し合っていてもお互いに理解できるのです.例えばAさんが旦那さんの仕事のこと、Bさんが子供の学校のこと、Cさんが料理の話し、Dさんがダイエットのこと、このように全く異なった話題を同時に話しても十分理解し合っているのです.男はこうした場には入れません.たとえ仲間に入ったとしても、1つの話題も理解できないと思います.まさに「井戸端会議に花が咲く」でしょうか?  また、この女性脳の特徴を活かした職業があります.同時通訳の仕事です.外国語を右脳で聞き、左脳で母国語に翻訳するのです.専門的な特殊な通訳以外は、全て女性が活躍しています.その理由がお分かり頂けたと思いますが如何でしょうか.余談になりますが、同時通訳の仕事は、脳を酷使するので脳が疲労してしまので、15分交代です.脳のエネルギー源はブドウ糖です、それで休憩にはチョコレートを食べるそうです。  それでは、どうしてこのような「男と女の脳の働きのちがい」が生まれたのでしょうか?人間の進化の過程にあるようです.人類がこの地球上に生存し始めたときから、男性は狩をして食料を確保し家族を守るのが仕事で、一方女性は洞窟で他のいくつもの家族と共同で生活し子供を育てたと言われています「図4」。

(図4)

狩の時に会話は不要で、目配せなど合図し数人で獲物を捕ったものと思います.そのため、現在でもその遺伝子が受け継がれ、男性は無口なのです.女性は共同生活を円滑にするために、お喋りに成ったのでしょう.因みに女性は1日に2万語、男性は僅か7千語と言われています。
今回のお話はこれでお終りですが、少しでも興味を持って頂ければ幸いです。