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多発性硬化症治療薬の著しい進歩

 
氏名 藤原一男
経歴 福島県立医科大学多発性硬化症治療学講座、教授
一般財団法人脳神経疾患研究所 多発性硬化症
視神経脊髄炎センター、センター長

 

 多発性硬化症(multiple sclerosis, MS)は脳脊髄に炎症による脱髄病変(脱髄とは神経線維を覆うミエリンが破壊されること、ミエリンは電線を覆うビニールのようなもので神経の情報伝達を速くするのに役立っています)が多発する疾患です。若年成人に起こりやすく我が国では1万数千人が罹患しており、年々増えています。
MSの症状は視覚障害、ふらつき、脱力、しびれ、記憶力の低下、排尿や排便の障害など様々ですが、無治療では再発を繰り返したり、しだいに病状が進行して不自由が増していく慢性の神経難病です。

 MSの再発を減らしたり、病状の進行を遅らせる薬を疾患修飾薬といいます。再発を繰り返すタイプのMS(再発寛解型MS)では、再発や脳病変を減少させる疾患修飾薬として、インターフェロンベーター(自己注射で皮下注と筋注の2剤がある)、フィンゴリモド(内服薬)、ナタリズマブ(点滴薬)が使用可能です。さらに最近、コパキソン(自己注射)も承認されまもなく臨床現場で使えるようになります。
一般に、インターフェロンベーターとコパキソンは第一選択薬(まずはじめに投与する薬)、フィンゴリモドとナタリズマブは第二選択薬(第一選択薬が効果不十分あるいは副作用で使えない場合、あるいは再発や脳病変が多い疾患活動性の高いMSでは最初から使う)に分類されています。
また、第一選択薬であるBG-12(内服薬)や歩行障害を改善する4-アミノピリジン(内服薬)の継続投与試験が進行中です。

 欧米ではさらに多くの薬剤がMSに承認されていますが、最近(H27年10月)スペインのバルセロナ市で開催され約9000人が参加した第31回ヨーロッパMS学会(ECTRIMS)では、これまで有効な薬のなかった慢性進行型MSにオクレリズマブというBリンパ球のCD20という分子に対するモノクローナル抗体製剤が病気の進行抑制に有効との治験の成績が報告され、またビオチンという物質を投与すると慢性進行型MSの症状を改善するという驚くべき結果も発表されました。
さらにこの学会では、MSの再発時に壊れたミエリンの再生(再髄鞘化)を促す抗リンゴ-1(LINGO-1)抗体という薬で、視神経炎の後の視覚誘発脳波所見の改善、すなわちこの治療薬により視神経炎の治りがよりよくなったことも報告されました。無論、これらの治療薬の有効性はさらに確認していく必要がありますが、MS治療の新たな可能性として大いに期待されます。


 このようにMSの治療薬の進歩は今や日進月歩ですが、その実際の投与についてはMS専門医とよく相談して自分に合うのかどうかを判断する必要があります。当クリニックではMSのセカンドオピニョン外来を第1、第3月曜日の午後に行っております(休診のこともありますので電話でご確認ください)。お気軽に御相談ください。

男と女の脳のちがい(そのI)

氏名 河村 弘庸【脳神経外科】
経歴 元東京女子医科大学 脳神経外科教授
淑徳大学非常勤講師

これからシリーズで、「男と女の脳のちがい」についてお話し致します。 皆さんの中には、男と女の脳の働きには大分違いがあるのではと気付く人もいると思います.ここに示した図1のように、子供も大人でも趣味も衣装もこんなに違いがあります。きっと脳の働きにも違いがあるのではないでしょうか?

(図1)

(図2)

さて、「男と女の脳の働きのちがい」には1言語、2立体認知、3視覚の3つに分かられます。今回は,1言語のちがいについてお話しします。はじめに、男と女が話しをしているときに脳のどのような場所を使っているか、特殊な診断装置(機能的MRI)使って見てみましょう。

(図3)

女の脳では、話しをしているとき、大脳半球の右も左も、前も後ろも働いています.一方、男の脳では、左大脳半球の前後2カ所しか使っていません.女性が如何にお喋りかお分かり頂けると思います.女性脳ではこの左右、前後の言語センターを駆使するので、3-4人の女性が違う話題を同時に話し合っていてもお互いに理解できるのです.例えばAさんが旦那さんの仕事のこと、Bさんが子供の学校のこと、Cさんが料理の話し、Dさんがダイエットのこと、このように全く異なった話題を同時に話しても十分理解し合っているのです.男はこうした場には入れません.たとえ仲間に入ったとしても、1つの話題も理解できないと思います.まさに「井戸端会議に花が咲く」でしょうか?  また、この女性脳の特徴を活かした職業があります.同時通訳の仕事です.外国語を右脳で聞き、左脳で母国語に翻訳するのです.専門的な特殊な通訳以外は、全て女性が活躍しています.その理由がお分かり頂けたと思いますが如何でしょうか.余談になりますが、同時通訳の仕事は、脳を酷使するので脳が疲労してしまので、15分交代です.脳のエネルギー源はブドウ糖です、それで休憩にはチョコレートを食べるそうです。  それでは、どうしてこのような「男と女の脳の働きのちがい」が生まれたのでしょうか?人間の進化の過程にあるようです.人類がこの地球上に生存し始めたときから、男性は狩をして食料を確保し家族を守るのが仕事で、一方女性は洞窟で他のいくつもの家族と共同で生活し子供を育てたと言われています「図4」。

(図4)

狩の時に会話は不要で、目配せなど合図し数人で獲物を捕ったものと思います.そのため、現在でもその遺伝子が受け継がれ、男性は無口なのです.女性は共同生活を円滑にするために、お喋りに成ったのでしょう.因みに女性は1日に2万語、男性は僅か7千語と言われています。
今回のお話はこれでお終りですが、少しでも興味を持って頂ければ幸いです。

冬の皮膚病―乾皮症性(皮脂欠乏性)湿疹

氏名 飯島 正文【皮膚科】
経歴 昭和大学名誉教授
山梨大学医学部皮膚科 非常勤講師
日本皮膚科学会元理事長

 

 冷え込んで乾燥するこの季節に急増する皮膚病が、乾皮症性(皮脂欠乏性)湿疹です。男女を問わず、特に高齢者に多く認められますが、40~50歳代の中年の患者さんも決して稀ではありません。
 病名の通り、この湿疹は冬季皮膚が乾燥してカサカサすることから始まります。乾燥した皮膚が強い痒みを誘い、この痒い乾燥皮膚を掻くことにより湿疹病変が作られ、さらに湿疹が痒みを増強させ、また掻くことにより湿疹がさらに悪化することになります。すなわち、乾燥皮膚→痒み誘発→掻破→湿疹誘発→痒み増強→掻破→湿疹増悪、という、痒みと掻破行為の悪循環、これをitch-scratch cycleと言います、が起こって湿疹病変が重篤化し、夜も眠れないと訴えて患者さんがクリニックの外来にお見えになります。

 治療の基本は通常の湿疹治療に加え、皮膚乾燥=乾皮症対策が重要です。湿疹にはステロイド外用療法が基本で、痒みには抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬内服を併用します。乾皮症には各種保湿剤、ヘパリノイド含有軟膏、尿素軟膏、ワセリンなどを用います。最も大切なことは日常生活指導で、風呂は温めを原則とし、汚れを洗い流す程度のやさしい石鹸使用にとどめてください。
江戸っ子の如く熱い風呂に入り、ナイロンの健康タオルでゴシゴシ擦って洗う垢すり行為は最悪です。冬の季節が来たら直ちに保湿剤(市販薬にも良いものがたくさんあります!)を用いた乾燥皮膚対策をお始め下さい。乾皮症の程度を改善する、掻いて湿疹化することを防ぐことが予防の第一歩です。加齢に伴って誰にでも老人性乾皮症は起こり得ますが、症状の程度は人により様々です。乾皮症は温度・湿度の急激な低下で悪化しますので、初冬の今こそが乾皮症対策の大事な季節です。

ペインクリニックと顔面神経麻痺治療への想い

氏名 増田 豊【ペインクリニック内科】
経歴 ペインクリニック内科 部長
昭和大学薬学部客員教授
聖マリアンナ医科大学客員教授
NPO法人 ペインクリニック普及協会 理事
麻酔指導医
ペインクリニック専門医

 

 ペインクリニックは、痛みを専門的に治療する部門である。首・肩・腕や足・腰の痛みを始め頭痛や顔面痛などあらゆる痛みに対して治療を行っている。その治療手段として、ペインクリニックで特徴的な手段が神経ブロック療法である。
 神経ブロックは、知覚神経、運動神経、自律神経の交感神経を対象に、それぞれ単独にまたは一緒にブロック(遮断)して痛みをはじめ症状や病態を改善することができる。特に交感神経に対するブロックの効果は特徴的である。支配領域の血行を改善し、発汗を抑制し、疼痛反射路を遮断して痛みや痛みの悪循環を改善する。代表的な交感神経の一つに星状神経節がある。
 少し古い話になるが、田中角栄氏が総理大臣を務めていた時期に、顔面神経麻痺になったという出来事を中年以上の読者なら覚えておられると思う。そのとき顔面神経麻痺の治療に星状神経節ブロックという神経ブロック療法が行われ、一般にはあまり知られていない治療法が首相に行われたこともあって、当時は大変話題になった。

 痛みの疾患ではない顔面神経麻痺の治療を、なぜペインクリニックが担当して星状神経節ブロックが行われたのか不審に思った人も世間には多かったであろう。
星状神経節というのは、頭部・顔面・頚部・上肢・上胸部領域を支配している交感神経であり、この神経をブロックするとこの領域の血流が増加して、障害を受けた部分の回復を速めることができる。つまり、顔面神経の障害により発症した顔面の麻痺症状を改善できるのである。
顔面神経麻痺に対しては、一般的にステロイド療法が選択されることが多いのだが、総理は糖尿病などもあり、ステロイド療法を希望されなかったのである。数ヶ月後に総理の表情はほぼ元通りに回復したことも当時の新聞記事で確認することができる。たまたま筆者は治療の手伝いをした経緯もあり、今でも忘れられない出来事として鮮明に覚えている。

 その後筆者は母校のペインクリニックを担当することになり、35年以上にわたりペインクリニックの診療に従事してきた。
母校のペインクリニックでは顔面神経麻痺の治療に対し星状神経節ブロックを積極的に応用し、予後診断に早くから電気生理学的診断機器(Electroneurography:ENoG)を導入し、その効果を評価してきた。院内の顔面神経麻痺患者の予後評価を行いつつ、星状神経節ブロックによる治療を数多く経験する機会を得た。
星状神経節ブロックに関してはいくつかの臨床研究を行ってきたが、「顔面神経麻痺の治療に対する星状神経節ブロックの効果」についての研究では、顔面神経麻痺が治癒した時点でステロイド療法と治療効果の差はなかったが、初期の麻痺回復の立ち上がりがステロイド療法より速かったという結果を得ている。
数年前から動物を用いて顔面神経麻痺の回復に影響する因子の研究なども行っており、星状神経節ブロックの有効性をさらに証明するために研究を継続している。

 神経ブロック療法は、手術が不可能な場合や、様々な事情で薬物療法が不可能な場合にも応用できる場合があり、今後の医療にとってさらに貢献できる可能性のある重要な手段であると考えている。