女性の肺がん

2022.08.23

氏名 宮元 秀昭【呼吸器外科】
経歴 秋田大学医学部卒業
社会福祉法人三井記念病院外科レジデント
国立がんセンタ-内視鏡部非常勤医師・外科研修医
社会福祉法人三井記念病院外科医局長
社会福祉法人三井記念病院呼吸器センタ-外科科長
順天堂大学医学部胸部外科学講師
順天堂大学医学部附属順天堂医院 呼吸器外科診療科長
順天堂大学医学部外科学助教授(呼吸器外科学研究室室長兼務)
順天堂大学医学部附属順天堂医院がん治療センター併任
一般財団法人脳神経疾患研究所附属呼吸器疾患研究所所長
総合南東北病院・南東北医療クリニック呼吸器センター センター長
NPO法人女性呼吸器疾患研究機構 設立 理事長就任
公益財団法人 日本医療機能評価機構 評価調査者委嘱

女性の肺がん

2018年の新規肺がん罹患者は約4万人。死亡者数も急増していて、同年は約2万2000人が肺がんによって亡くなりました。最近は女性の肺がんの増加が日本人全体の肺がん死亡者数増加の大きな要因となっています。

肺がんの一番の原因は「喫煙」であることは言うまでもありませんが、非喫煙者の肺がんが現在注目を集めており、環境、職業、大気、遺伝子、性が検討されています。非喫煙者の肺がんは現在、がん死の第7の原因で、世界で肺がん患者の25%が非喫煙者と推定されています。

女性の肺がんは先進国では、女性の社会進出もあり、喫煙と大きく関係しています。米国では過去42年間で男性の肺がんは36%減少したのに対し、女性は84%増加しました。肺がんに罹患した女性のうち約20%が非喫煙者でした。それに対して、女性非喫煙者肺がんの割合は東アジア・南アジアで高く、60-80%です。日本の女性は喫煙者も、非喫煙者も肺がんのリスクが高いのです。

喫煙以外では受動喫煙が大きな原因であることはご存じのとおりですが、「タバコと無関係なら肺がんにはならないのでは?」と考える女性も多いかもしれません。しかし、女性ホルモンが肺がんに関係することが指摘されています。女性ホルモンであるエストロゲンは、肺のがん細胞の増殖を直接促進したり、肺がん細胞中にあるエストロゲン受容体に、エストロゲンがくっつくことによってがん化を促進したりすることにより、肺がんの発生にかかわると考えられています。

国立がん研究センターは2022年、女性非喫煙者の肺がんは、女性ホルモンのエストロゲンが関係している可能性があるという研究結果を発表しました。40~69歳のたばこを吸ったことがない約4万2000人の女性を21年間追跡した結果、400人が肺がんに罹患し、うち305人が肺腺がんでした。閉経が早い女性に比べて、遅い女性の方が肺腺がんのリスクが1.41倍高く、初潮から閉経までの期間が短い女性と比べて、長い女性の方が肺腺がんのリスクが1.48倍高いという結果でした。正常な肺や肺がんの組織には、女性ホルモンのエストロゲンが結合する「エストロゲン受容体」があることから、肺がんの発生にはエストロゲンが関係していると考えられています。初経から閉経までの期間が長い場合、高濃度のエストロゲンに長期間さらされるため、それが肺がんリスクの上昇に関連した可能性があります。卵巣を摘出するなど外科的処置によって閉経した女性は、2.75倍も腺がんのリスクが上がったという研究報告もあります。外科的処置によって閉経したことで、急激にホルモンの変化が起きたり、術後のホルモン剤の服用などがリスクを上げている可能性があるとしています。

喫煙女性はもちろん、受動喫煙でタバコを吸ったことがなくても、初潮から閉経の時期が長い(36年以上)、あるいは手術により閉経した経験のある方は、ぜひ、呼吸器科を一度受診してみてはいかがでしょうか。

新型コロナと後遺症