ドクターコラム 新型コロナと後遺症

呼吸器外科 宮元 秀昭

2022年7月20日掲載

新型コロナウイルス感染症はすでに第7波に入りました。重症患者さんは明らかに減っており、恐怖を抱く人々も減っています。しかし、第6波で後遺症を訴える人が確実に増えています。若い世代では、学校に行けなくなったり、仕事ができなくなったりと、毎日の生活に大きな支障を受けている人たちがSNSで訴えています。今回の第7波もたいへん心配です。

世界保健機構(WHO)では、他の疾患の影響ではなく2か月以上続いている症状を「コロナ後遺症」と定義しています。だるい、息苦しい、頭がぼーっとして思考力が落ちるなどの症状が、感染から3か月以上経ってもみられ、海外では「long COVID」と呼ばれています。一度治まっても、再び現れることもあります。症状には様々な要因が絡んでいて、治療方法は定まっていません。ワクチン接種で後遺症の予防ができるという報告もありません。4人に1人が発症から半年経っても何らかの後遺症を抱えているという報告もあります。今回は、新型コロナの後遺症について、男性と女性では免疫の反応が異なり、症状の回復に差がみられるという、京都大学の上野教授の研究をご紹介します。

ウイルスは体に侵入すると細胞に感染しますが、「T細胞」と呼ばれる免疫細胞が、このウイルスに感染した細胞を狙って攻撃をするというウイルス排除の役割や、自分自身の免疫の暴走を抑える役割などを担っています。京都大学の上野英樹教授は、後遺症患者の血液からこのT細胞を解析し、その結果、強い倦怠感を訴える女性の場合、ウイルスを排除するT細胞とその働きを抑えるT細胞の両方が過剰に作られることで免疫が暴走していること、また、嗅覚や味覚障害だけが残る患者については、ウイルスを排除するT細胞が極端に少ないことを発見しました。

感染した際に、ウイルスを排除するT細胞があまり作られない場合は、回復後もウイルスの欠片が体の中に残り、症状を引き起こすとみています。一方、男性ではウイルスを排除するT細胞があまり作られません。男性は新型コロナウイルスだけではなく、かぜの原因のコロナウイルスに対してもT細胞の反応が弱いということです。即ち、後遺症は女性のほうが出やすく、一旦症状が出れば、男性のほうが全身に散らばったウイルスのかけらを排除できないために、症状の回復が遅い可能性が示唆されました。

  • 後遺症とワクチン接種の関連について、イギリス保健安全局は2022年2月15日に、ワクチンの接種によって後遺症が軽く、短期間で済む可能性があるという報告をしました。また、上野教授によりますと、女性の嗅覚・味覚障害や息苦しさ・動悸といった症状は、接種によって免疫のバランスが整うため早く改善に向かう可能性があるとのことです。一方、男性では改善がみられないので、少なくとも女性はワクチンを接種したほうが良いのではないでしょうか。

もしも、今この瞬間、後遺症に悩む方がいらっしゃれば、ご相談にお応えしますので、呼吸器外来を受診してください。